2008年8月23日


航空自衛隊のイラクからの撤退を求める申入書

航空自衛隊小牧基地司令 石野次男様
航空自衛隊小牧基地隊員・家族の皆様

 7月29日、熊本日日新聞はそのトップ記事で「空自の年内イラク撤退」を報じました。多国籍軍のイラク駐留根拠となっている国連決議の期限が12月で切れること、日本政府はイラク政府との地位協定で継続を望むも、イラク派兵に反対する野党多数の参議院もあり、断念せざるを得ない内外情勢ゆえという。
 ブッシュ・アメリカ政府に追随する時の勢力にとっては口惜しいことかも知れませんが、5年前のあのアメリカ軍のイラク攻撃は言うに及ばず、91年の湾岸戦争、海自掃海部隊のペルシャ湾への派兵、カンボジアへの陸自施設大隊派兵、ゴラン高原への兵力分離PKF派兵など自衛隊の海外派兵に反対してきた私たちにとって、そして今なお、自衛隊の海外派兵に反対している多くの多くの人びとにとって、この「空自のイラク年内撤退」は朗報です。
 アメリカのイラクへの武力攻撃はもちろん、空自の武装米兵の空輸も多くのイラクの人びとにとって怨嗟の対象でしかありません。日本がイラクと同様な攻撃と空輸を他国から受けたことを想定すれば明らかです。もし、そんな攻撃と空輸を他国から受けたとき、空自はどうするのでしょうか、甘受するのでしょうか。
 他国からの武力侵略と占領は、期間の長短はあっても、過ぐる20世紀、そしてこの21世紀では必ず潰えています。日本の日清戦争から太平洋戦争終結まで50年間、隣国そしてアジア諸国への侵略と植民地支配は多くの犠牲を強い、結局は潰えました。ナチスドイツのヨーロッパ侵攻・フランス占領も然り。イギリスのインド支配然り。フランスのベトナム支配、続くアメリカによるベトナム戦争も然りです。ソ連のアフガニスタン侵攻も1988年に終わらざるをえませんでした。2001年10月以降の米軍によるアフガニスタン攻撃は、今やEU諸国も巻き込んで「対テロ戦争」となっていますが、山岳の邦アフガニスタン、谷ごとに民族があるというこの国の人びとが、「ソ連はそのうち疲れて帰る」と言った通りになり、「米軍もそのうち帰る」と言っているように、カイザル政権も首都カーブルしか、しかも昼間しか支配できていないという。「対テロ戦争」といっても当のアフガニスタン人は一人としてあのニューヨークの世界貿易センタービルの崩壊事件に加わっていません。「9・11事件」の真相も究明されることなく、一方的に空爆を受けたアフガニスタンの人びとにとっては濡れ衣を着せられたどころではありません。誤射、誤爆が7年続いています。ペシャワール会現地代表の中村哲さんは、アフガニスタンの村々には日本で言えば寺子屋に当たる「マドラッサ」と呼ばれる学校があり、ここで学ぶ生徒を「タリブ」といい、その複数形が「タリバン」であるという。「9・11事件」と全く関わりのないアフガニスタンの人びと、が、「アルカイダ」とのかかわりを理由に「対テロ戦争」の敵国とみなされ空爆を受けています。これは「大量破壊兵器がある」「アルカイダとフセイン大統領とは関係がある」との理由を作り上げてイラクを攻撃したことと瓜二つです。
アフガニスタンでの「対テロ戦争」に加担する「テロ特措法」に基づく海自補給艦・護衛艦のアラビア海での給油活動はそもそもブッシュ大統領への追従政策の一つです。この1月からの「新テロ特措法」による給油、40回のうち最多の16回をパキスタンの艦船が受けているという。ブッシュ大統領の「対テロ戦争」にしっかり加担してきたパキスタンのムシャラフ大統領が今月18日に辞任を表明し、「対テロ戦争」の一角がまた一つ消えていきます。
 あと4ヶ月でブッシュ大統領の任期が切れます。戦争優先のブッシュ大統領はこの8年間でアメリカ社会の貧困化を一層進めました。様々な経済指標が「アメリカの世紀」の終わりを告げ、「対テロ戦争」も幕切れです。
 対米軍拡競争で軍事力拡大を最優先したソ連(経済)が崩壊したとき、アメリカも軍拡をやめるべきでしたが、軍事超大国は湾岸戦争、アフガニスタン攻撃、イラク攻撃、戦争と一方的攻撃を繰り返してきました。「軍需産業が巨大化すると、それを維持するために戦争をつくる」というシナリオどおりにアメリカという国は歩んでいます。マネーゲームや投機で利を得ることに賭け、社会生活の基礎である生産や労働を蔑ろにし、軍備に税をつぎ込み、社会保障費を削り、貧困をつくり、若者(兵士)を使い捨ててきた国策を、次期アメリカ大統領がどう舵を切るのか、今までどおりならばアメリカ社会は凋落するしかないでしょう。
 想定される空自のイラクからの撤退まで、あと4ヶ月。先が見えてきました。空自の皆さんは生きて還ってください。8月6日、秋葉忠利広島市長は平和宣言において「核兵器は廃絶されることにだけ意味がある」と述べました。核兵器の使用は人類の未来をも破壊するからです。
地球上のどの生物も、命を継続させ、子孫を残すことにかけています。アメリカ占領下のイラクの人々はもちろん、当のアメリカ軍兵士も命令の遂行とともに、いつ撃たれるか分からない「戦場」で自身の命を守ることに神経をすり減らしています。侵略軍の宿命です。これはアメリカ軍の撤退まで続きます。
アメリカとイラク政府の新たな駐留協定と撤退日程については、来年夏までに都市部からの撤退、2011年には全部隊の撤退が合意されるとの報道がある。
そして、イギリス軍も来年には大幅にイラクから撤退するという。
60数年前、命令によって中国戦線や南方の島々に派兵された多くの日本兵・軍属がいました。日本の敗戦によって生還できたとき、家族とともに生きている喜びを分かちあえました。
あと4ヶ月です。空自隊員の皆さん、生還することに全力を挙げてください。
生きること、命を伝えること、これが生きとし生けるものの役目です。
団欒の 幸せちがい あるものか 日本の空と イラクの沙漠

<ノーモア南京>名古屋の会 事務局 
              社民党愛知県連合副代表   平山良平  
              住所 西尾市高畠町4-75-3