2008年4月26日

航空自衛隊のイラクからの撤退を求める申入書

 

航空自衛隊小牧基地司令 石野次男様

航空自衛隊小牧基地隊員・家族の皆様

 

 4月17日、名古屋高等裁判所民事第3部は、「イラクで行なわれている航空自衛隊の空輸活動のうち、少なくとも多国籍軍の武装兵員を、戦闘地域であるバクダッドへ空輸するものについては、他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行使を行なったとの評価を受けざるを得ない行動であるということができる。よって、現在イラクにおいて行なわれている航空自衛隊の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘区域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる」と判示しました。

 この判決に対して、福田首相は、派兵差止請求の訴えが棄却されたことで、「国の判断が正しいというのが結論だ」、空自活動については「問題はない、特別どうこうするということはない」と見解を述べました。福田首相は、裁判の中身も、判決の意味とその重み、そして行政と司法との関係もよく解かっていないからでしょう。

派兵差止請求を裁判所が棄却した理由は、「派遣が控訴人らに向けられたものではなく、控訴人が憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制させられるまでの事態が生じているとはいえず、具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められない」というもので、裁判所は武装するアメリカ兵を空輸する現在の空自活動を担う自衛隊員が裁判の原告であったならば、差止請求を認めたであろうという判決です。

空輸活動自体は武力の行使ではないにしても、多国籍軍の武装兵員を戦闘地域であるバクダッドに空輸することは、他国による武力行使と一体化した行動であって憲法9条1項違反となるという判決です。

この9条1項の武力行使を禁じた日本国憲法があるがゆえに自衛隊員の命が守られています。武力行使を禁止していないアメリカ合衆国憲法のもと、攻撃理由を作りブッシュ大統領はイラク攻撃を軍に命じました。その実行者となったアメリカ兵は既に4000人以上が死亡し、攻撃を受け占領されているイラク国民はアメリカ兵の何十倍、何百倍の人びとが故なく死傷しています。

このアメリカのブッシュ政権のイラク攻撃と占領をどう見るか、アメリカ軍の攻撃と占領を是とした日本政府はイラク特措法(イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法)を成立させ、現在は航空自衛隊がクウェートのアリ・アルサレム空軍基地とイラクの首都バグダッド空港や北部のアルビル空港へ主にアメリカ軍の兵員と物資の輸送にあたっています。

この現在の空自の、他国による武力行使と一体化した空輸活動をそのイラク特措法にも、憲法9条1項にも違反する活動と判決したことに対して、18日、田母神俊雄空自幕僚長は会見の席上、「私が心境を代弁すれば“そんなの関係ねえ”という状況だ」と述べたという。これではまるでイラク占領の一翼を担うアメリカ軍将校の見解表明です。武力行使を禁じた憲法、それに則って空自のイラクでの活動を憲法違反とした判決を“そんなの関係ねえ”では思慮がたりません。

田母神幕僚長は25日に、“そんなの関係ねえ”を「政府の命令で動くという意味で、我々の行動に関係しないという意味」と釈明していますが、その政府(行政府)も三権分立の一権力であり、司法の判断を受ける対象であり、自衛隊が直接には政府の命令で動くとしても、空自の行動に関係しないというのは誤りで、立憲主義国家は三権分立で機能しているという関係が解かっていません。

元小牧基地溝口博伸指令の「いつまでアメリカが始めた戦争につき合うのか」、との言は、軍事超大国で自制がきかないアメリカ政府の言いなりになった日本政府が自衛隊を海外派兵することに対する抑制のきいた警鐘として、私の心に今も残っています。

54年前、自衛隊法・防衛庁設置法が成立するとき、参議院で「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」がなされました。「現行憲法の条章と我が国民の熾烈なる平和愛好精神に照らし、海外出動はこれを行わないことを、茲に更めて確認する。(1954年6月2日)」とあります。私たちも、自衛隊員もともに、肝に命ずべきことです。

日清、日露戦争からほぼ10年ごとに大きな戦争を起こし台湾を割譲させ、朝鮮半島を植民地とし、柳条湖事件で中国大陸、太平洋戦争で西太平洋、東南アジアまで広大な地域海域で侵略を進めた日本軍は、昭和20年8月15日の終戦の詔勅で敗戦をむかえ、サンフランシスコ講和条約によって日清戦争以降に獲得したという領土は全てなくなりました。日清戦争から昭和20年8月の敗戦までの51年間で、多くの将兵と日本国民の犠牲とそれに数倍する他国民の犠牲をもたらし、この近代日本の膨大な犠牲によって現在の日本が獲得したものが日本国憲法です。9条です。

戦後63年、直接の武力行使はなく、幸いにして、自衛隊員に戦死者はいない、はずです。政府による自衛隊のイラク派兵は各地で自衛隊イラク派兵差止訴訟を呼び起こし、ついにこの名古屋高裁が、「他国による武力行使と一体化した空自の空輸活動を憲法違反」と判断しました。これを機に、戦後日本の原点に立ちかえるべきです。戦争をしない日本です。

イラク特措法にも、憲法9条にも違反する航空自衛隊のイラクでの空輸活動について、小牧基地指令として政府にイラクからの空自撤退を具申してください。

 

 薫風を 鯉も泳がん この空に いさもどりこい バクダッドより

 

<ノーモア南京>名古屋の会 事務局 

              社民党愛知県連合副代表   平山良平  

              住所 西尾市高畠町4-75-3