2008年5月24日


航空自衛隊のイラクからの撤退を求める申入書

航空自衛隊小牧基地司令 石野次男様
航空自衛隊小牧基地隊員・家族の皆様

 名古屋高等裁判所民事第3部が「現在イラクにおいて行なわれている航空自衛隊の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘区域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる」との判決を出して1ヶ月以上過ぎました。上告期限が過ぎ5月2日に判決が確定しました。政府首脳に最高裁で反論できないことは問題である旨の発言がありましたが、そもそも、被告に当たる国の代理人は反論どころか、過去の、自衛隊派兵を容認した判例に寄りかかった主張をするだけで、空自の活動実態さえも法廷で審らかにすることはありませんでした。最高裁での反論以前の問題です。政府に迎合する裁判官ばかりではありません。法律と良心に従って審理し判決を出した名古屋高裁民事第3部は、日本の裁判所のあるべき姿を示しています。
 去る5月20日、岐阜県弁護士会は「自衛隊イラク派兵違憲判決に関する会長声明」を発しました。過去2回にわたる自衛隊のイラク派兵に反対する声明で、イラク特措法はイラクにおける自衛隊の武力行使を容認するもので憲法前文と第9条に違反する恐れが大きいこと、イラクは戦争状態にあり、その全土が戦闘地域であって、イラク特措法2条にいう非戦闘地域は存在しないことをあげており、名古屋高裁判決は当会と同じ立場をとると述べ、判決は平和の基盤があってこそ憲法の保障する基本的人権が存立しうることを理由に平和的生存権が『全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利であるということができ、単に憲法の基本的精神や理念を表明したに留まるのではない』としており、画期的判決であると評価した上で、判決以降の政府及び自衛隊関係者による発言は、違憲判断を真摯に受け止めるものではなく、むしろ司法を軽視すると同時に最高法規たる憲法を軽視するものであって、到底看過することはできないとし、当会は日本政府に対し、司法府の憲法判断を尊重して違憲状態を解消し、自衛隊をイラクから即時撤退させることを強く求める、とあります。
 今、問われているのは日本政府の航空自衛隊のイラク派兵です。
 行政府として言うべきことがあるなら、福田首相は違憲判決に対して、証拠を示し、イラク特措法にも、憲法9条にも違反していないことを国民の前で堂々と説明すべきです。
 アメリカ大統領ブッシュとイギリスのブレア首相が5年前にイラクを一方的に攻撃しましたが、それをいち早く支持したのは日本の小泉首相(当時)でした。攻撃理由とされた大量破壊兵器はイラクには存在せず、フセイン大統領とアルカイダとの関係もありませんでした。福田首相はアメリカ、イギリスのイラク攻撃について見解をあらためて示すべきです。
 田母神航空幕僚長は、違憲判決に「そんなの関係ねえ」、「政府の命令で動く」ではなく、違憲判決の中身であるイラクでの空自の輸送活動についての実態を国民に示した上でその見解を明らかにすべきです。
 この5月10日に87歳の元日赤救護看護婦・守屋ミサさんの体験を聴きました。病院船での勤務、南方からの帰還兵は戦傷による手足の切断が目立ったが、戦局の悪化につれ、飢えからくる栄養失調が増えてきた。そして、常に1割くらいが精神疾患で、それは戦闘の恐怖、異常な軍隊生活によるものと思われる、と話し、日本が戦争に巻き込まれないようにと、呼ばれれば、高齢をものともせず講演にでかける。戦後63年たった今も戦争の語り部の守屋ミサさんです。
 Bush  lies ,  People  die .
ブッシュがうそをつけば、人びとが死ぬ。
 イラク攻撃と占領の5年、うそで始められた攻撃で、アメリカ兵の戦死者は4000人を超え、イラクの民の死者はその10倍は下らないでしょう。南京大虐殺と同様に、正確な死者の人数は分からない。包囲殲滅戦もあり、外国の報道陣も入れないようなイラクの状況ゆえです。4000年砂漠の地で文明を育て、生き抜いてきたイラクの民、現在の苦難を生き抜いたイラクの人びとは全てブッシュのイラク攻撃についての語り部となるでしょう。
 もしこの日本がイラクの立場(攻撃され占領されている)であったなら、イラクでの空自隊員のような活動をする外国の兵隊を、日本人は・自衛隊員はどんな眼差しで見るのでしょうか。
 現時点でも、5年後も、100年後もブッシュの攻撃・占領は人道にも、国際法にも反しています。
アメリカ国民も、もうブッシュの戦争を支持していません。
 名古屋高裁(の違憲判決)は空自のイラクからの撤退を法的に導き出しました。
 判決が確定し、判決後1ヶ月以上たっても福田首相ら政府首脳が違憲判決に対応できないならば、空自隊員とC130H輸送機をイラクに派遣し、武装したアメリカ軍兵士を空輸する指揮に関わる小牧基地指令は、その当事者としてもはや空自隊員のイラクからの撤退を具申すべきではないでしょうか。
 
法律に 照らし違憲の 判決は 砂漠に慈雨の 降るごとく染む

<ノーモア南京>名古屋の会 事務局 
              社民党愛知県連合副代表   平山良平  
               住所 西尾市高畠町4-75-3  

 

 

 

 

派兵差止請求を裁判所が棄却した理由は、「派遣が控訴人らに向けられたものではなく、控訴人が憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制させられるまでの事態が生じているとはいえず、具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められない」というもので、裁判所は武装するアメリカ兵を空輸する現在の空自活動を担う自衛隊員が裁判の原告であったならば、差止請求を認めたであろうという判決です。
空輸活動自体は武力の行使ではないにしても、多国籍軍の武装兵員を戦闘地域であるバクダッドに空輸することは、他国による武力行使と一体化した行動であって憲法9条1項違反となるという判決です。
この9条1項の武力行使を禁じた日本国憲法があるがゆえに自衛隊員の命が守られています。武力行使を禁止していないアメリカ合衆国憲法のもと、攻撃理由を作りブッシュ大統領はイラク攻撃を軍に命じました。その実行者となったアメリカ兵は既に4000人以上が死亡し、攻撃を受け占領されているイラク国民はアメリカ兵の何十倍、何百倍の人びとが故なく死傷しています。
このアメリカのブッシュ政権のイラク攻撃と占領をどう見るか、アメリカ軍の攻撃と占領を是とした日本政府はイラク特措法(イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法)を成立させ、現在は航空自衛隊がクウェートのアリ・アルサレム空軍基地とイラクの首都バグダッド空港や北部のアルビル空港へ主にアメリカ軍の兵員と物資の輸送にあたっています。
この現在の空自の、他国による武力行使と一体化した空輸活動をそのイラク特措法にも、憲法9条1項にも違反する活動と判決したことに対して、18日、田母神俊雄空自幕僚長は会見の席上、「私が心境を代弁すれば“そんなの関係ねえ”という状況だ」と述べたという。これではまるでイラク占領の一翼を担うアメリカ軍将校の見解表明です。武力行使を禁じた憲法、それに則って空自のイラクでの活動を憲法違反とした判決を“そんなの関係ねえ”では思慮がたりません。
田母神幕僚長は25日に、“そんなの関係ねえ”を「政府の命令で動くという意味で、我々の行動に関係しないという意味」と釈明していますが、その政府(行政府)も三権分立の一権力であり、司法の判断を受ける対象であり、自衛隊が直接には政府の命令で動くとしても、空自の行動に関係しないというのは誤りで、立憲主義国家は三権分立で機能しているという関係が解かっていません。
元小牧基地溝口博伸指令の「いつまでアメリカが始めた戦争につき合うのか」、との言は、軍事超大国で自制がきかないアメリカ政府の言いなりになった日本政府が自衛隊を海外派兵することに対する抑制のきいた警鐘として、私の心に今も残っています。
54年前、自衛隊法・防衛庁設置法が成立するとき、参議院で「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」がなされました。「現行憲法の条章と我が国民の熾烈なる平和愛好精神に照らし、海外出動はこれを行わないことを、茲に更めて確認する。(1954年6月2日)」とあります。私たちも、自衛隊員もともに、肝に命ずべきことです。
日清、日露戦争からほぼ10年ごとに大きな戦争を起こし台湾を割譲させ、朝鮮半島を植民地とし、柳条湖事件で中国大陸、太平洋戦争で西太平洋、東南アジアまで広大な地域海域で侵略を進めた日本軍は、昭和20年8月15日の終戦の詔勅で敗戦をむかえ、サンフランシスコ講和条約によって日清戦争以降に獲得したという領土は全てなくなりました。日清戦争から昭和20年8月の敗戦までの51年間で、多くの将兵と日本国民の犠牲とそれに数倍する他国民の犠牲をもたらし、この近代日本の膨大な犠牲によって現在の日本が獲得したものが日本国憲法です。9条です。
戦後63年、直接の武力行使はなく、幸いにして、自衛隊員に戦死者はいない、はずです。政府による自衛隊のイラク派兵は各地で自衛隊イラク派兵差止訴訟を呼び起こし、ついにこの名古屋高裁が、「他国による武力行使と一体化した空自の空輸活動を憲法違反」と判断しました。これを機に、戦後日本の原点に立ちかえるべきです。戦争をしない日本です。
イラク特措法にも、憲法9条にも違反する航空自衛隊のイラクでの空輸活動について、小牧基地指令として政府にイラクからの空自撤退を具申してください。

 薫風を 鯉も泳がん この空に いさもどりこい バクダッドより

<ノーモア南京>名古屋の会 事務局 
              社民党愛知県連合副代表   平山良平  
              住所 西尾市高畠町4-75-3